作品について
タイトル
梅花の宴
素材
ステンレス、コンクリート、砕石、砂利
ご挨拶
坂本八幡宮のモニュメントにお越しくださり、ありがとうございます。
このモニュメントは、「梅花の宴」をモチーフとした作品です。
「梅花の宴」の歴史を調べていく中で、当時の時代背景を見ていくと、現代にも通じるものを感じました。
今の私たちに、どうやったら「梅花の宴」を感じることができるだろうと想像を広げ、生まれた作品です。
当時、梅は中国から輸入された最先端の文化の象徴でした。そして、万葉歌は気持ちを伝えるためのツールでした。
自分自身や大切な人、自然の美しさを思いながら、心と向き合い、歌は詠まれていました。
現代に置き換えると、スマホやインターネットなどの最先端の技術を使って、SNS(インスタグラム・フェイスブック・ブログ)に自分の想いを発信する人々の在り方にも通じているように思います。
壁面や地面についている「鏡(ステンレス)」たちは、心と向き合う装置として象っています。
この場所で、自分自身のことや、大切な人、自然の美しさを思いながら、SNSに投稿する。
SNSをやっていない人は、大切な誰かにメールや手紙を送るでも良いかと思います。
あなたの行動で、この作品は完成します。
作品を通じて、「梅花の宴」のように歌を詠んでいた方々の気持ちに触れて、歴史に親近感を感じるキッカケになれば幸いです。
太宰府や全国に、万葉集や日本文化に対して深く研究されている方々がいらっしゃいます。
そうした方々の文献を読むと、さらに日本文化の美しさを知ることができると思います。
2月には、作品の後ろには梅が咲きます。見頃の季節の一つです。
作品を通じて、「梅花の宴」を思う時間をお楽しみください。
杉田 廣貴
主催について
この作品は、一般社団法人つくし青年会議所の50周年記念事業として制作されました。
坂本八幡宮の他にも、観世音寺のコスモス畑にも作品が展示されます。
当作品を制作する上で、多大なるご尽力をいただき、心から感謝を申し上げます。
詳しくは、
ARTiVERS DAZAIFU 2021
にて、ご確認ください。
目次
アートや歴史に詳しくない方のために解説しています。
作品をより詳しく楽しむための方法を記載していますので、ご参考ください。
梅花の宴とは
このモニュメント作品は、
今の福岡県、大宰府にあった万葉集を代表する歌人、大伴旅人の邸宅であった「梅花の宴」をモチーフに制作しています。
では、「梅花の宴」とは、何か?
そこを紐解いていくと、この作品の意図と出会えます。
最先端を象徴する「梅」と、大陸の文化に倣った「宴」
当時、九州全体を司る役所が太宰府にありました。
大伴旅人はそのトップとして派遣されてきた「中央官僚」。
彼を中心に、歌人山上憶良ら計32人が集まり、酒に酔い、大伴邸宅に咲き誇った梅の花をめでたと伝わっています。
「梅」は当時、中国からきた流行の最先端の花でした。
最先端で高貴を象徴する「梅」-
さらには大宰府は、中国や朝鮮半島からの渡来人が行き交う都市。
当時の先端文化の中国から、中国の本(漢籍や文選)が日本でも流行っていて、大伴旅人もよく読んでいたと言われています。
中には、梅を愛でた本「蘭亭集(らんていしゅう)」もありました。
これらの本を読んだ大伴旅人が、中国の文人もやっているような詩宴をやろうと、
当時の歌人などを集めて開催したのが、梅花の宴です。
「蘭亭集」をモチーフに「梅花の宴」は開催されている
梅花の宴では、中国の本「蘭亭集(らんていしゅう)」をモチーフにしています。
蘭亭集とは、「蘭亭」にて、353年に41名の詩人が集い、宴会して、詩を詠んだもの。
行っている内容も、梅花の宴に似ていますね。
中国の本「蘭亭集」のように、私たちも宴をしようと行ったのが「梅花の宴」という捉え方もできます。
その中には、「蘭亭集序(らんていしゅのじょ)」というものがあります。
書道や習字をしたことがある人が必ず出会う、書家 王羲之が書いた中国の故事「蘭亭集」の序文。
その蘭亭集序のように、梅花の宴でも序文があります。
大伴旅人も当時、蘭亭で行われた詩宴をモチーフにしていることが見て取れます。
注) この梅花の宴の序文、
初春の令月にして、気淑く風和らぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす
(初春令月 氣淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香)
の一節を典拠として、新元号「令和」が選定されています。
梅をテーマに歌を詠まれている
万葉集 巻五 梅花の歌32首并せて序を読むとわかりますが、どの歌にも「梅」という言葉が入っています。
「梅」を揶揄して、今の気持ちを表現する。
最先端でもあり、高貴のシンボルであった「梅」を歌にすることは、当時のカッコ良さであったのかもしれません。
この時代では、
貴族の教養としても「歌」が流行っていて、中国や朝鮮半島などの海外文化から学び、それを活かすこともステータスの一つでした。
自分の言葉を発信するツールが「歌」でした。
梅花の宴は、大伴旅人を中心とした長官や陰陽師、詩人など、高貴な方々が多い印象ですが、「万葉集」には一般の人の歌も残っています。
万葉集とは、今のSNSのように、自分を発信するための重要なツールだったのではないでしょうか?
そうした解釈で、梅花の宴や万葉集を見ると、また違った視点で「歌」を楽しめます。
参考資料
万葉集 巻五 梅花の歌32首并せて序(出 万葉秀歌(斎藤茂吉))
この作品について
「梅花の宴とは?」をお読みくださった方々には、作者の意図が少し見えてきたかもしれません。
このモニュメントは、「梅花の宴」をモチーフにした作品です。
先述の通り、梅花の宴の歴史をリサーチし、作者によるコンセプトワークが始まりました。
「梅花の宴」を言葉だけで読み取れば、宴の絵になるかもしれません。
しかし、その解釈だけでは、作品と出会ってくださった皆様に、
彼らがなぜ梅花の宴を開催したのか?が伝わりません。
そこで、時代背景を読みながら、現代に落とし込み、今の時代の「梅花の宴」とは何か?を再解釈しました。
「梅」、「歌」、「心」で解釈する、梅花の宴
この梅花の宴を読み解いていくと、
「梅」=最先端の存在
「歌」=自分の想いや、言葉を発信すること
そして、そこに集う人々は、歌を詠む際に、自分自身の過去や、大切な人、見える自然などに心を向けます。
「心」=自分自身のこと、大切な誰か、自然と向き合っている。
この3つの要素をピックアップして、作品を制作しました。
3つの要素を揃えて行動する事で、この作品は完成します
この3つの要素を味わうことで、
当時「梅花の宴」で歌を詠んだ方々と同じような心境を体験できると思います。
先程の3つの要素を、以下の3つに置き換え、表現しています。
梅は、スマホやインターネットなどのテクノロジー。現代の最先端の技術のもの
歌は、インスタグラムやブログなどのSNSへの投稿。もしくは手紙や声、メールなどで想いを伝えるという行動
心は、壁や地面にあるステンレスの鏡。自分自身や大切な人を思う時間
あなたも作品の一部です。
このモニュメントの中で、自分や大切な人を思い、スマホで写真を撮影し、SNSに想いをシェアする。
この行動で、作品は完成します。
ステンレス(鏡)作品は、梅花の宴の景色も表しています
このステンレスは、自分や大切な人の存在と向き合うための作品として制作しています。
実は、この形にも意味があります。
梅花の宴を想像したとき、
人が歌を詠んでいて、池越しに、蝶(または花びら)が舞っている姿をイメージしました。
地面には、空を映し出す月。
イメージした姿を、シンプルに削ぎ落としたのが、この形です。
そして、地面に月が存在する理由は、
土が剥がれて、地層の中に存在する「過去」を映し出しています。
作品の楽しみ方
1、「心」と向き合う時間
1)真ん中のボンヤリとしたステンレスは「水」を意味し、自分と向き合う時間を表しています。
2)ハートのステンレスは、「愛」を意味し、大切な人を思う時間を表しています。
3)iの形をしたステンレスは、ロウソクの炎と、人を見立てていて、「火」を意味し、自分の中にある情熱や命と出会う時間を表しています。
4)地面に配置したステンレスは、「月」を意味し、月や空、太陽を含めた自然と出会う時間を表しています。
あなたが本当に伝えたい「言葉」は何ですか?
深呼吸をして、作品と向き合い、「時間」を堪能ください。
2、「梅」で「歌」を詠む
自分自身や、大切な人と向き合い、自然で心をいやした方は、次の行動をされてみてください。
スマホやカメラを片手に、自分の思うままに撮影してみてください^^
▼撮り方参考
1)真ん中のステンレスに映る自分を撮ってみる。
2)ハートのステンレスに映る姿や、ハートと一緒に写真を撮ってみる。
3)iのステンレスと見つめ合う姿を撮ってみる。
4)地面のステンレスに映る空を映し出してみる。
そして、SNSやメールなどで、あなたの想いをシェアされてみてください。
そこで感じた「心から出てきた言葉」を大切にされてください。
作者 / 協力
作品名
梅花の宴
作者
杉田 廣貴
https://kokisugita.com/
制作年
2021
監修
大森和枝
https://kazueomori-art.com/
QUARK GLUON
https://qg-p.com/
設計
株式会社 スタジオモブ
https://stmove.com/
施工
株式会社 柿本建設
素材
東洋ステンレス研磨工業株式会社
https://www.toyo-kenma.co.jp/